やわらかな光に心躍る季節になりましたが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。宗近では、夏の風物詩 宗近の冷し中華の製造が早くも始まっています。冷たい麺を食べたくなる季節がようやく近づいてきましたね!
さて、宗近ではこの3月に大きな変化があります。「ゆでうどん」「ゆで中華」「焼きそば」の販売を終了いたします。福井県内でのみ販売していた、いわゆるゆで麺(袋麺)※と呼ばれるものの販売が大幅に減ります。
※以下ゆで麺。4月以降のゆで麺商品は「ゆでそば」のみとなります。
宗近そばをご愛顧頂いている県内外のみなさま、今回のお話は宗近そばとは異なる商品で、地域の方向けのゆで麺商品ですが、ぜひ最後までご覧ください。
このゆで麺に関して、麺業界では深い闇を抱えています。みなさんから、よくこんな質問を頂きます。「お店でよく売ってる10円とか20円のゆで麺って、なんであんなに安いの?」「あんなに安くて大丈夫なの?」答えは……正直、私にも分かりません。私たちが同じことをやろうとすると、「空気だけ詰めても、もはや赤字」だからです。同じ業界なので、原材料費から店頭に並ぶまでの様々な費用まで、全てを把握しています。全て把握しているからこそ、なぜあんなに安いのか分からないのです。
昨今、ご存じの通り原材料が高騰しています。10円、20円のゆで麺を製造されている製麺所さんは、企業努力という言葉ではどうにもならないくらい、本当に苦労されています。私たちも、数年前まで同じ苦労を体験し、製麺所存続の危機に陥っていました。本当に長い年月、ゆで麺作りをしてきました。
「ゆでうどん:67年間」「ゆで中華:60年間」「焼きそば 55年間」まさに宗近製麺所の歴史そのものですね。
私たちのゆで麺作りの朝は早く、いつも深夜2時頃から始まります。朝6時頃までに作り終えて、出来立てをその日のうちに配達します。(ゆで麺は消費期限が短く、ちょっとでもおいしく食べてもらおうという、先代からの思いもあります)
これは、私がまだ子供のころのお話です。
父親(三代目)、母親(三代目女将)は深夜からゆで麺作りをしているため、私が朝起きると寝室には誰もいません。朝ごはんも、私と兄弟だけで食べて学校の身支度を整えます。
身支度の最中に何か分からないことがあると、製麺所まで母親に話をしに向かいます。
製麺機の音、茹で麺機の音、機械を洗浄する音、小さい頃の私にはどれも耳障りな大きな音でしたが、その環境の中で必死に働いている父親・母親の姿が今でも脳裏に焼き付いています。当時は、そんな製麺所の現状がすごく嫌で、どこか寂しさを感じていましたが、「これが宗近家の宿命なんだな」と幼いながらも悟っていました。
そんな幼少期~高校までを過ごし、その後、私は32歳まで福井を離れていましたが、その長い年月の間も、家族総出で毎日ゆで麺づくりを続けていました。福井を離れている10数年の間、宗近製麺所の内情を聞いてこなかったので、「順調にやっているのかな」くらいに簡単に考えていました。
さあ、32歳でいざ宗近製麺所を継ごうと意気揚々と帰ってました。そこで母親(三代目女将)から、強烈な話を聞かされました。「毎月の売上げよりも、仕入れ金額がいつも上回っている…」「今に始まったことでなく、もう10年以上…」「私たち個人のお金を会社に入れて、なんとかやってきたけどもう底をつきそう…」
衝撃的な出来事でした。
順風満帆かと思って帰ってきたら、実は火の車…。それでも家族は毎日忙しく、深夜から働き続けている現状でした。過去に比べて取引先の数は減っていません、製造数はむしろ増えています。なのに、赤字…
「えっ?意味わからん!」
答えは単純明快でした。20年以上前に始まったゆで麺商品の安売り合戦の波に乗ってしまい、商品の価格を下げてしまったことが原因でした。そんな時でも「高品質な麺を作る」という思いだけは変わらないので、原料は一級品。
ここで、母親(三代目女将)の、あの言葉とつながりました。「毎月の売上げよりも、仕入れ金額がいつも上回っている…」当たり前ですよね。いい原料を使って、いい商品を作ろうとしているのに、原価度返しで安く販売しているのですから。
何十年も作り続けてきたゆで麺が赤字…。物心ついた頃からずっと見てきた、みんなの頑張りが報われていない現実を知りました。そして、それは自分たちだけではなく、全国の製麺所も同じ現状だと分かりました。これが、今なお抜け出せない、日本の製麺業界の深い闇です。
同じ福井県内で数年前に経営難で廃業された製麺所があるのですが、廃業される日にそこの社長さんとお話しする機会がありました。「これから寂しくなりますねぇ」そう私が話したとき、思いもよらない答えが。「いやいや、ようやく妻と二人でゆっくり旅行に行けるわ。これまで何十年もろくに休み取れんかったから」安堵の表情でこんなお話をされた時、同じ業界の立場としてと、私はものすごく寂しく感じました。
麺業界の未来を明るくしたい、次の世代にとって魅力ある麺業態にしたい。いつも私はこう発信し続けていますが、実はこの言葉の中には、ある種親孝行のような意味も含まれています。
私の家族が実際に味わってきた苦労が報われる現実にしたいからです。そうすることで、全国の製麺所の未来も明るくなると信じています。
こういった考えのもと、ゆで麺の製造を大幅に減らすことにしました。業務縮小ということではなく、「もっと美味しい商品」「もっと良いサービス」をご提供することに集中するための前向きな決断です。
私たちの商品・サービスでみなさまに喜んでいただけると、スタッフ達もうれしくなります。
当たり前のことですが、その方が働き甲斐もありますし、麺づくりがもっと好きになります。そんな状況が作りやすい環境にしたいと考えています。これまで世代を超えてゆで商品をご愛顧頂いていた方々、本当にありがとうございました。
私たちの麺を通じて、みなさまの生活がより楽しくなる!
それが私たちの思いであり、そのために挑戦し続けます。
今後ともどうかご愛顧・応援をよろしくお願いします!
四代目 宗近鉄也